個人名義の自動車を法人の経費にする方法

法人で事業目的に使用するための車を、法人契約で購入すれば税務上難しい点はありません。しかし、任意保険の等級やローン審査の問題などが絡むため、個人名義で自動車を購入したいという相談を受けることがあります。

本記事では個人名義で購入した自動車を法人の経費に計上する方法について解説します。

1.個人名義の車を法人経費にする方法

以下の3つの方法が考えられます。

  1. 個人から法人に名義変更をする
  2. 個人から法人に貸し付ける
  3. 実質所得者課税の原則に則って法人に資産計上する

それぞれ解説していきます。

(1)個人から法人に名義変更をする

まずは個人から法人に名義変更する方法です。名義変更するためには個人から法人に自動車を売却する必要があります。

車を法人名義にすることで、減価償却費として法人に経費計上することができます。また、当然ながら自動車関連の費用すべてを法人経費に計上可能です。経費計上の金額が大きいため、節税効果も高いと言えます。購入した本体価格は消費税上課税仕入となる点も見逃せません(インボイス制度の影響で将来的には課税仕入にならなくなる可能性はありますが…)。

①売却額の算出方法

問題は、個人から法人に自動車を売却する際の売却額です。この場合の売却額は時価相当額とする必要があります。

時価の調べ方ですが、同じ年式、同程度の走行距離などの中古車の販売価格を参考にするのが最も簡単な方法でしょう。インターネットで中古車の販売価格は簡単に検索することができます。この際に参考にした資料を保存しておくことも重要です。「客観的かつ合理的な価格で売買した」という根拠を残しておけば税務調査の際に安心です。

なお、売却額=帳簿価額とするのは誤りなので注意してください。例え帳簿価額が0円でも、時価が0円になることはまずありません。

②時価より著しく低い価格で売買した場合

では、時価とかけ離れた金額で売買した場合、どのような取扱いになるのでしょうか。

時価の2分の1未満の金額で売買した場合「低額譲渡」に該当します。低額譲渡についての詳細説明は省きますが、この場合、時価で売買したものとして課税されます。

本ケースの場合、売却した個人に対して「みなし譲渡所得」として課税される場合があります。一方、時価より著しく低い価格で自動車を譲り受けた法人についても、購入価格と時価の差額が受贈益として課税されることとなります。

③個人側の課税関係

個人名義の車を会社に売却した場合、以下の条件に当てはまる方は確定申告が必要となる可能性があります。なお、いずれのケースも譲渡益が発生していることが前提です。

  • 個人事業主が、事業用の自動車を売却した場合
  • 個人事業を営んでいない個人が、レジャー用の車や高級車を売却した場合

上記の場合、いずれも譲渡所得として所得税の確定申告が必要となります。名義変更の方法を採る場合には上記も考慮したうえで対応を検討しましょう。

また、個人事業主が事業用の自動車を売却した場合、消費税上課税売上となる点も忘れてはならないポイントです。

(2)個人から法人に貸し付ける

続いては個人から法人に自動車をリースする方法です。この方法を採用した場合、自動車の契約名義は個人のままです。個人と法人の間で「賃貸借契約書」を締結し、法人から個人に自動車の使用料を支払います。

法人の経費に計上できるのは以下の支出となります。

  • 自動車の賃借料
  • 自動車の維持費やガソリン代、高速代等

車両本体の減価償却費は計上できないため(1)の方法より経費計上額は少なくなりますが、より手軽な方法であると言えます。

注意点は、自動車を貸す側の個人に賃料収入が発生するため、所得税の確定申告が必要となる可能性があります。

(3)実質所得者課税の原則に則って法人に資産計上する

会社の取締役等が個人名義で自動車を購入した場合でも、法人の資産として計上できる場合があります。これは「実質所得者課税の原則」に則った考え方です。

この方法であれば名義変更をすることなく、車両本体の減価償却費や自動車関係の経費すべてを法人の経費に計上することが可能です。

元々会社の事業にのみ使用する予定の自動車であり、購入資金も会社が負担するのであれば「形式よりも実態」という考え方で法人の資産とすることが認められると考えられます。

自動車購入資金を個人が立て替え払いしている場合は、その個人と会社との間で金銭消費貸借契約書等を作成しておく必要があるでしょう。

税務調査対策として「個人名義ではあるが、実態は法人が100%使用」していることを証明する書類の保存があればなお良いと思われます。具体的には個人と法人の間で自動車使用に関する同意書等を作成するなどの方法です。

2.まとめ

個人名義の自動車を法人の経費に計上する方法について解説しました。

(3)の方法が一番効率的かつ効果的であると感じた方も多いと思います。ただし(3)の方法は事業に100%使用していることが大前提となりますので、そこが認められなければ税務調査で否認されるリスクがあります。

リスクも頭に入れたうえで検討することをおすすめします。

青色申告の特典「繰越欠損金」の基礎知識

法人が青色申告を選択することによる最大のメリットは「繰越欠損金」です。当期の黒字と過去の赤字を相殺することにより、大きな節税効果が見込めます。本記事ではそんな青色繰越欠損金について解説します。

※本記事は中小法人(資本金1億円以下等)に係る繰越欠損金について記述しています。

1.繰越欠損金の概要

国税庁ホームページから繰越欠損金の概要部分を引用します。

確定申告書を提出する法人の各事業年度開始の日前10年(注)以内に開始した事業年度で青色申告書を提出した事業年度に生じた欠損金額は、各事業年度の所得金額の計算上損金の額に算入されます。

(注) 平成30年4月1日前に開始した事業年度において生じた欠損金額の繰越期間は9年です。

国税庁ホームページ「青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越控除」

要するに、過去10年の間に生じた青色欠損金は、法人税確定申告の際に所得から控除できるということです。

注意が必要な点は、引用文注釈の「平成30年4月1日前に開始した事業年度において生じた欠損金額の繰越期間は9年」という部分です。「欠損金は10年繰越可能」とだけ覚えていると、平成30年度以前の欠損金がうっかり期限切れになりかねません。

また、実は「10年」という表現は正確ではなく、正しくは「10事業年度」です。例えば決算期を変更するなどして1年未満の事業年度が生じた場合、過去の欠損金の期限が早まることになります。

2.繰越欠損金の適用要件

青色欠損金の繰越控除の要件は以下の3点です。

青色欠損金の要件

①欠損金の生じた事業年度について青色申告書を提出していること

②その後において無申告の期間がないこと

③欠損金の生じた事業年度に係る帳簿書類等の保存があること

やや判断が難しいのが「(青色が取り消されるなどして)白色申告の場合」「(休眠期間など)無申告の期間がある場合」といったケースです。それぞれ以下解説します。

(1)白色申告の場合

青色申告が取り消されてしまった場合など、当期の申告が白色申告となった場合、繰越欠損金の取り扱いは以下の通りとなります。

白色申告の場合

①白色申告事業年度において生じた欠損金は繰越不可

②青色申告時代に生じた繰越欠損金は、白色申告事業年度においても控除可能

青色申告であるか白色申告であるかは、その事業年度に生じた欠損金を繰り越せるか否かに影響します。白色申告の事業年度に生じた欠損金は将来に繰り越すことができません

一方、過去の青色申告時代に生じた繰越欠損金は、当期が白色申告であっても控除することが可能です。この辺り勘違いしやすいため区別して覚えておきましょう。

(2)過去に無申告がある場合

休眠企業を復活させた場合、過去数期間が無申告であるというケースがよくあります。この場合、

①青色欠損金の控除を行う事業年度の確定申告書を提出する前に
②無申告期間の確定申告(期限後申告)を行う

ことにより、過去の青色欠損金の繰越控除を適用することができます。

必ず順守しなければならないのは、繰越欠損金を控除しようとする事業年度の申告前に、過去の無申告期間の期限後申告を行わなければならないという点です。順番が逆になると繰越欠損金の控除は認められないため注意が必要です。

高所得者の税務上の注意点。役員報酬を取り過ぎるとデメリットがある?

収入は多ければ多いほどうれしいものですが、高所得者には様々な税務上の制限があります。ある程度自由に自分の給与を決めることができる法人の役員は特に注意が必要です。

1.高所得者に生じるデメリットとは?

高所得者に生じる税務上のデメリットには以下のものが挙げられます。

  • 確定申告をする必要が生じる(年収2,000万円超)
  • 配偶者控除が受けられなくなる(合計所得1,000万円超)
  • 住宅ローン控除が受けられなくなる(合計所得2,000万円超)
  • 基礎控除が受けられなくなる(合計所得2,500万円超)
  • 所得税率が上がる(課税所得が基準)

なお、上記のデメリットのうち一番上と一番下以外は「合計所得金額」が判定の基準となります。

合計所得金額とは?

合計所得金額とは、各所得金額の合計額です。例えば給与と不動産賃貸料の2種類の収入がある人の合計所得金額は以下のように計算します。

合計所得金額の計算例

①給与所得の計算
給与収入-給与所得控除額=給与所得
②不動産所得の計算
不動産賃貸収入-必要経費-青色申告特別控除=不動産所得
③合計所得金額=①+②

合計所得金額の計算には分離課税(退職所得、土地建物の譲渡所得、株式等の譲渡所得など)の所得金額も含まれます。なお、総合課税の長期譲渡所得と一時所得については2分の1の金額を合計所得金額に含めます。

2.《年収2,000万円以上》確定申告をする必要が生じる

通常、会社員は会社で行う年末調整で所得税の計算や住民税の申告などの処理が完結します。しかし給与収入が2,000万円を超える人は年末調整をすることができず、必ず確定申告を行わなければなりません。

3.《合計所得1,000万円超》配偶者控除が受けられなくなる

妻や夫などの配偶者を扶養している場合、配偶者控除が受けられます。合計所得金額が900万円以下の方は一律38万円の控除が利用できます。一方高所得者は配偶者控除に制限があり、合計所得金額が900万円を超えると段階的に控除額が下がっていきます。

  • 合計所得金額 900万円超950万円以下…配偶者控除26万円
  • 合計所得金額 950万円超1,000万円以下…配偶者控除13万円
  • 合計所得金額 1,000万円超…配偶者控除不可

4.《合計所得2,000万円超》住宅ローン控除が受けられなくなる

本来であれば「住宅ローンの年末残高×0.7%」の控除を10年間受けることができますが、合計所得金額が2,000万円を超えると住宅ローン控除が利用できなくなります。ただし、適用初年度に合計所得金額が2,000万円を超えていて住宅ローン控除が受けられなかった人でも、翌年度以降で合計所得金額が2,000万円以下になった年は住宅ローン控除の適用を受けることができます。

5.《合計所得2,500万円超》基礎控除が受けられなくなる

基礎控除は「誰でも一律48万円の控除が受けられる」と説明されることが多いですが、高所得者には制限があります。合計所得金額が2,400万円を超えると段階的に控除額が減少し、合計所得金額2,500万円を超えると基礎控除が受けられなくなります。

  • 合計所得金額 2,400万円超2,450万円以下…基礎控除32万円
  • 合計所得金額 2,450万円超2,500万円以下…基礎控除16万円
  • 合計所得金額 2,500万円超…基礎控除不可

6.所得税率が上がる

最後に当たり前の話ですが、所得税率は累進課税なので所得が上がれば上がるほど所得税率が上がります。ここで言う所得は「課税所得」です。課税所得とは、簡単に言えば合計所得金額から所得控除を引いた金額です。

所得税の最高税率は45%と非常に高額のため、高所得者にとってはこの累進課税という制度が最も負担が重いとも言えます。

なお、勘違いされやすいのですが所得税率はあるラインを超えたからといってドカンと一気に上がるわけではありません。簡単な例を以下に示します。

所得税の計算方法

【前提】
課税所得金額は5,000万円とする

【誤った計算例】
課税所得金額5,000万円×45%=所得税額2,250万円

【正しい計算例】
(1,950,000×5%)+(1,350,000×10%)+(3,650,000×20%)+(2,050,000×23%)+(9,000,000×33%)+(22,000,000×40%)+(10,000,000×45%)=17,704,000円

正しい計算例の通り、所得税率は所得に応じて段階的に上がっていくものです。上記の計算を簡単に行うために、国税庁ホームページに以下の表が掲載されています。

課税所得税率控除額
1,000円 から 1,949,000円まで5%0円
1,950,000円 から 3,299,000円まで10%97,500円
3,300,000円 から 6,949,000円まで20%427,500円
6,950,000円 から 8,999,000円まで23%636,000円
9,000,000円 から 17,999,000円まで33%1,536,000円
18,000,000円 から 39,999,000円まで40%2,796,000円
40,000,000円 以上45%4,796,000円

「課税所得金額5,000万円×45%-4,796,000円=17,704,000円」のように上記表の「控除額」を引けば簡単に正しい所得税が計算できます。

7.まとめ

簡単ではありますが高所得者に生じる所得税のデメリットを紹介しました。役員報酬や配当金額を決められる立場にある方は、所得税のデメリットも考慮したうえで判断することをおすすめします。

「税金のペナルティ」加算税・延滞税とは?

税金の申告や納付が遅れたらペナルティが発生するということは何となく知っている方も多いと思います。ペナルティには様々ありますが、代表的なものが各種加算税、そして延滞税です。本記事ではそんな加算税と延滞税について詳細を解説します。

1.加算税・延滞税とは?

ペナルティとして課される加算税は4種類あります。延滞税と合わせて解説していきます。

なお、本記事では触れませんが「利子税」という附帯税もあります。利子税は税務署との合意で納付の延長が認められた場合に課されるペナルティです。

①無申告加算税

無申告加算税は本来の申告期限までに申告を行わなかった場合に課される加算税です。無申告加算税は原則として以下のように計算されます。

無申告加算税の計算式

①納税額が50万円までの部分
納税額×15%

②納税額が50万円を超える部分
納税額×20%

原則は上記となりますが、無申告加算税はケースごとに免除もしくは軽減の定めがあります。

軽減は「完全に自主的に期限後申告した場合」と「税務調査通知後に期限後申告した場合」の2パターンに分かれます。

無申告加算税の軽減

①税務調査を受ける前に自主的に期限後申告をした場合
納税額×5%

②税務調査の事前通知の後に期限後申告をした場合
【納税額が50万円までの部分】
納税額×10%
【納税額が50万円を超える部分】
納税額×15%

最後に免除の要件です。次の要件をすべて満たす場合には無申告加算税は免除されます。

無申告加算税の免除

  • 申告期限から1ヶ月以内に自主的に期限後申告をしていること
  • 期限内に全額納税していること
  • 過去5年に無申告加算税又は重加算税を課されたことがなく、かつ無申告加算税の免除を受けていないこと

②過少申告加算税

過少申告加算税は申告期限内に申告を済ませていた場合において、以下のいずれかに該当する場合に課される加算税です。

  • 本来の納税額より少ない税額で申告していた場合
  • 本来の還付金額より多い還付金額で申告していた場合

上記の場合には修正申告をすることになりますが、その修正申告を行ったタイミングによって免除・軽減の定めがあります。

過少申告加算税の計算式

税務調査後または税務署からの更正後に修正申告を行う場合

①新たに納める税金が当初の申告納税額と50万円のいずれか多い金額を超えない部分
新たに納めることとなった税額×10%

新たに納める税金が当初の申告納税額と50万円のいずれか多い金額を超える部分
新たに納めることとなった税額×15%

過少申告加算税が軽減されるのは「税務調査の事前通知後に修正申告を行った」場合です。

過少申告加算税の軽減

①納税額が50万円までの部分
納税額×5%

②納税額が50万円を超える部分
納税額×10%

最後に過少申告加算税が免除されるケースです。過少申告加算税は「税務署の調査を受ける前に自主的に修正申告」をすれば免除されます。

なお、修正申告を行った場合に生じた新たに納める税金の納付期限はは、修正申告書を提出した日となるため注意が必要です。

③不納付加算税

不納付加算税は、源泉所得税を期限内に納付したかった場合に課される加算税です。計算方法は下記になります。

不納付加算税の計算式

  • 自主的な納付…納税額×5%
  • 税務署から告知された後の納付…納税額×10%

納付が1日遅れただけで5%の加算税が付くため、延滞税と比べて非常に厳しいペナルティとなっています。

なお、源泉所得税を納付期限から1ヶ月以内に納付した場合、不納付加算税は免除されます。ただし過去1年間に期限後納付がないことが前提条件となります。

④重加算税

重加算税は仮装隠蔽などの悪質な行為が判明した場合に課される加算税です。税率は以下の通りで、全てのペナルティの中で最も重い負担です。

  • 無申告の場合…40%
  • 過少申告の場合…35%
  • 源泉所得税の不納付の場合…35%

なお、仮装隠蔽があると7年間さかのぼって追徴されるため加算税だけでも相当な負担となります。そもそも悪質な行為を行わなければ済む話ですが、一応頭に入れておきましょう。

延滞税

延滞税は文字通り税金を延滞した場合に課されるペナルティです。加算税とは違い延滞した日数により金額が変動します。

延滞税は本来の納付期限を基準とし、「納付期限の翌日から2ヶ月以内」と「2ヶ月超」で税率が大きく変わります。

延滞税の税率

  • 納期限の翌日から2月を経過する日までの期間…2.4%
  • 上記①以降の期間…8.7%

※令和5年度の税率です

なお、延滞税の税率は「特例基準割合」を基準に決まります。特例基準割合は銀行融資の平均金利が基準となっており、毎年多少変動します。

では実際に延滞税の計算をしてみましょう。

延滞税の計算例

【条件】
・本税20万円
・本来の納付期限=5月31日
・納付日=8月31日

【延滞税額】
(20万円×2.4%×61日/365日)+(20万円×8.7%×31日/365日)=2,279円→2,200円(100円未満切り捨て)


なお、修正申告をした場合には、修正申告書の提出日までは低い税率で延滞税が計算され、修正申告書の提出日から2ヶ月以降から高い税率で計算されます。

社長や個人事業主は加入必須?小規模企業共済のメリット・デメリット

個人事業主や経営者は小規模企業共済による節税を一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。しかし実際にお得なのか、損する可能性はないのか気になるところでしょう。本記事ではそんな小規模企業共済について詳しく解説します。

1.小規模企業共済とは?

小規模企業共済とは企業の役員や個人事業主を対象とした退職金制度です。運営母体が国の機関である中小機構であるため安心感が強く、手軽な節税手法として非常に多くの経営者・個人事業主が加入しています。

小規模企業共済に加入するメリット

(1)掛金支払額の全額が所得控除

月々の掛金は1,000円~70,000円まで500円単位で自由に設定でき、いつでも金額変更ができます。年間に支払った掛金の額の全額が所得控除の対象となるため、所得税の節税に高い効果があります。

(2)共済金の受取りは方法を選択できる

共済金は退職や廃業時に受け取ることができます。満期や満額はありませんが、途中での任意解約も可能です(後述の理由によりおすすめしません)。共済金の受け取り方は「一括」「分割」「一括と分割の併用」を選択することができます。一括受取りの場合は退職所得、分割受取りの場合は公的年金等の雑所得扱いとなるため税制的に優遇されていると言えます。

(3)低金利の貸付制度を利用できる

掛金の範囲内で事業資金を借り入れることができます。低金利かつ即日借入できるためいざという時の助けとなります。

2.加入資格

小規模企業共済制度に加入できるのは次のいずれかに該当する方です。

  1. 建設業、製造業、運輸業、サービス業(宿泊業・娯楽業に限る)、不動産業、農業などを営む場合は、常時使用する従業員の数が20人以下の個人事業主または会社等の役員
  2. 商業(卸売業・小売業)、サービス業(宿泊業・娯楽業を除く)を営む場合は、常時使用する従業員の数が5人以下の個人事業主または会社等の役員
  3. 事業に従事する組合員の数が20人以下の企業組合の役員、常時使用する従業員の数が20人以下の協業組合の役員
  4. 常時使用する従業員の数が20人以下であって、農業の経営を主として行っている農事組合法人の役員
  5. 常時使用する従業員の数が5人以下の弁護士法人、税理士法人等の士業法人の社員
  6. 上記「1」と「2」に該当する個人事業主が営む事業の経営に携わる共同経営者(個人事業主1人につき2人まで)

3.加入方法

申し込み用紙に必要事項を記入のうえ、銀行等の窓口に提出します。小規模企業共済への加入手続きは、中小機構が業務委託契約を結んでいる団体または金融機関の窓口で行ってください。

https://www.smrj.go.jp/kyosai/skyosai/entry/procedure/index.html

4.解約金はどうやってもらえる?

小規模企業共済は以下の事由により解約し、共済金を受け取ることができます。

  • 廃業
  • 法人の解散
  • 法人成り
  • 死亡
  • 老齢給付(65歳以上で180か月以上払込み)
  • 任意解約

事由により受け取れる共済金の種類が異なります。自身の事由が該当する共済金の種類と、共済金の計算方法は以下のURLを参照してください。

共済金の種類と金額算定方法

共済金(解約手当金)について-中小機構 https://www.smrj.go.jp/kyosai/skyosai/about/proceed/index.html

共済金の額の算定方法-中小機構 https://www.smrj.go.jp/kyosai/skyosai/about/proceed/frr94k000000fm41.html

なお任意解約の場合、払込月数が20年未満だと受け取れる解約手当金が掛金合計額を下回るため注意が必要です。

5.解約金は課税される?

共済金は受け取り時の年齢や受け取り方によって税法上の取扱いが異なります。

受取方法税法上の扱い
共済金を一括で受け取る場合退職所得
共済金を分割で受け取る場合公的年金等の雑所得
共済金を一括・分割併用で受け取る場合(一括分)退職所得
(分割分)公的年金等の雑所得
遺族が共済金を受け取る場合(死亡退職金)(相続税法上)みなし相続財産
65歳以上の方が任意解約した場合退職所得
65歳未満の方が任意解約した場合一時所得
12か月以上の掛金未納による解約一時所得

廃業や法人の解散などによって共済金を受け取る場合、一括で受け取るなら「退職所得」、分割で受け取るなら「公的年金等の雑所得」扱いとなります。退職所得は退職所得控除が、公的年金の雑所得は110万円控除が使えるため税制上かなり優遇されていると言えます。注意が必要なのは「65歳未満で任意解約」した場合です。この場合は一時所得扱いとなります。   

一時所得の計算式

{(総収入金額-必要経費)-特別控除額(最大50万円)}×0.5

ここで気になるのが「過去に支払った掛金の額が必要経費になるのか?」という点ですが、残念ながら掛金支払額は必要経費になりません。そもそも毎年掛金支払額の所得控除を受けていたわけですから、ここで必要経費にできないのも当然の話です。

では、実際に一時所得で受け取るとどのくらいの損が出るのでしょうか?ここで一旦退職所得の計算式を示します。

退職所得の計算式

(退職金の額-退職所得控除※)×0.5

※退職所得控除とは
・勤続年数が20年までの場合
 40万円×勤続年数(80万円より少ないときは80万円)
・勤続年数が20年を超える場合
 70万円×勤続年数-600万円

では具体的な計算をしてみます。

一時所得と退職所得

【前提条件】
・一時金の受取額…1,000万円
・加入期間20年
・年齢は50歳
・所得控除は考慮しない

【一時所得】
(1,000万円-50万円)×0.5=475万円(一時所得)
所得税額…475万円×20%-427,500円=522,500円

【退職所得】
(1,000万円-40万円×20年)×0.5=100万円(退職所得)
所得税額…100万円×5%=5万円

上記の例では任意解約した場合、10倍の税負担が生じることが分かります。資金繰りの関係でまとまった金額が欲しいとしても安易に任意解約はせず、貸付制度を検討するなどした方が得策でしょう。

法人成りを検討する際の注意点とメリット・デメリット

個人事業主の方の多くは「このまま個人事業を続けるべきか」「法人成りすべきか」という選択で悩んだ経験があるのではないでしょうか。法人成りにはメリットもデメリットもあるため慎重に判断することが必要です。

1.法人成りにベストなタイミングとは?

「いつ法人成りするのがベストですか?」「法人と個人、どちらが有利ですか?」といった質問を個人事業主の方から受ける機会が非常に多いです。

この質問に対する正解は「ケースバイケース」「結果論」といった毒にも薬にもならない回答になってしまいます。「最大限得をしたい」という観点で考えると想像以上に難しい選択なのです。

そうは言っても何かしらのヒントを提供しないわけにはいきません。そのために、まずは「なぜ法人成りしたいのか」という点を突き詰めて考えてみましょう。法人成りを検討している方は、おおむね次の2点のいずれか、または両方を念頭に法人成りを検討しているものと思います。

  • 節税面で得なのはどちらか
  • 事業にプラスになるのはどちらか

(1)節税面で法人成りを検討するタイミング

税制面で言えば個人事業主と法人とでは大きな違いがあります。

個人事業主に課せられるのは所得税・住民税・個人事業税です。このうち所得税は累進課税であるため、所得が大きくなればなるほど税負担が増えます。課税所得が4,000万円以上ある方は所得税+住民税の税率が55%と非常に負担が重くなります。このような方は法人成りをした方がほぼ間違いなく税負担を減少させることができます。

問題は「所得がどれくらい出たら法人税の方が有利なのか」ですが、一般的には事業所得が800万円~1,000万円ほど安定して出ていれば法人成りを検討する価値があると思われます。だいたいこの辺りで個人の税負担が法人の税負担を上回るケースが多くなると言えるでしょう。

個人事業vs法人 税負担比較

【前提条件】
・40代、妻を扶養
・事業の利益=900万円
・所得控除=150万円(配偶者控除・基礎控除・社会保険料控除を想定)
・法人成りは利益と役員報酬を同額にしたと仮定

【個人事業の税負担】
①所得税…(900万円-150万円)×23%-636,000=1,089,000円
②住民税…(900万円-150万円)×10%=750,000円
③個人事業税…(900万円-290万円+65万円{青色控除不可})×5%=337,500円
個人事業の税負担合計…2,176,500円
(参考:国民健康保険・国民年金の負担額約80万円)

【法人の税負担】
①法人税等…450万円×33.58%(中小企業・標準税率の実効税率)=1,511,100円
②役員報酬の所得税…(450万円-134万円{給与所得控除}-150万円)×5%=83,000円
法人の税負担合計…1,594,100円
(参考:社会保険料の個人負担額約68万円、会社負担分も含めた総負担額約136万円)

※正確な計算ではないためあくまで参考です

ただしこれもケースバイケースです。個人事業でも扶養家族が多い方や、住宅ローン控除を利用している方は個人の税負担の方が軽く済む可能性があります。

また、法人では社会保険料の負担も増えますが、会社負担分は経費になるため法人税の負担は上記計算式よりも減少します。この点も含めて検討すると比較的正確な比較ができますが、それでもこのくらいの利益では個人でも法人でも大きな差は生じない可能性が高いでしょう。

(2)事業面で法人成りを検討するタイミング

事業を拡大したいという目的で法人成りを検討している方は、思い立った時点で法人成りしてしまっても良いでしょう。規模の大きな会社と取引をしたい場合は個人事業より法人の方が有利に働く可能性があります。また、雇用面や金融機関からの融資の観点でも法人の方が有利です。

以前は「法人成りすると設立から2期目までは消費税が免除される」という分かりやすいメリットがあったのですが、インボイス制度の導入でそのメリットも享受できなくなる可能性が高いです。したがって事業拡大目的の方は細かいデメリットを気にするよりも事業の拡大に集中した方が得策と言えます。

ただし、法人成りにも後述するデメリットはあります。「なんとなく法人の方がかっこいいから」のようにボヤっとした理由で法人成りを考えている方は慎重に検討する必要があるでしょう。

2.法人成りのメリットとデメリットとは?

すでに触れている点も多いですが、法人成りのメリットとデメリットの一例を挙げていきます。

(1)法人成りのメリット

  • 取引先・金融機関・採用面で一定の信用が得られる
  • 赤字決算の際の繰越欠損金を10年間繰越しできる
  • 好きな時期に決算月を設定できる
  • 役員報酬を経費にできる

法人の場合、赤字申告で生じた「繰越欠損金」を10年間繰り越せる点が節税面での大きなメリットです。個人事業では赤字は3年間しか繰り越しできませんし、そもそも役員報酬を経費にできない個人事業では赤字申告自体が稀です。

法人は役員報酬を経費に計上できる点も大きなメリットです。個人事業では毎月の生活費を経費にすることはできませんが、法人では自分の生活費(役員報酬)を丸々経費に計上できるような感覚です。

(2)法人成りのデメリット

  • 社会保険の加入義務が生じる
  • 金銭的な自由が効かない
  • 赤字でも税金が生じる
  • 経理作業が複雑化する
  • 登記や税務署への届出等の事務負担
  • 税理士費用が増額する
  • 設立時に30万円前後の費用がかかる
  • 税務調査リスクが増える

法人成りで意外と負担となるのが社会保険料です。社長1人の会社でも社会保険の加入義務が生じます。社会保険は会社と個人で折半して負担しますが、会社のお金と社長個人のお金をトータルで考えるとかなりの負担感があるでしょう。

また、法人は金銭的な自由が制限されます。個人時代には可能だった「好きな時に好きなだけ生活費を引き出す」といったお金の使い方はできなくなります。役員報酬は年1回しか変更できず、基本的に毎月定額でなければなりません。当然法人口座でプライベートな費用を支払うこともNGです。

さらに、法人は赤字決算でも都道府県民税の均等割が最低7万円ほど生じます。

また、経理ルール・税務申告の複雑化・税務署への届出等の事務作業が増加し、それに伴って税理士費用が増加します。さらに、住所変更や事業目的の追加など定期的に登記作業が生じるため司法書士費用もかかります。さらに毎年の役員報酬の改定には株主総会議事録の作成が必要など、事務負担が増します。

最後に、株式会社の設立には定款認証~登記・司法書士への報酬として25万円~30万円ほどかかります。設立費用をできるだけ抑えたい方は10万円~15万円ほどで設立できる合同会社を検討してもいいでしょう。

4.法人成りは慎重に判断すべき

本記事で挙げたように法人成りにはいい面も悪い面もあります。節税面だけを考えて法人成りしても、結果的に個人の方が得だったというケースも少なくありません。

あまり節税に固執して判断するよりも、将来的な事業の見通しに合わせた選択をした方が後悔しない選択ができるのではないでしょうか。

給与と業務委託契約(外注費)の違いとは?否認されないための注意点

従業員に支払う給与と、業務委託先に支払う外注費。これらは似て非なるものであり、違いを明確にしておく必要があります。税務調査で指摘されやすい部分でもありますので基準を把握しておきましょう。

1.給与と外注費 税務面での相違点

まずは税務面における違いを整理します。

従業員給与個人事業主との業務委託
源泉所得税徴収義務あり業種による
消費税の仕入税額控除不可可能
社会保険勤務時間・日数次第で加入義務あり加入不可

要するに、従業員を雇うと以下のような負担が生じます。

  • 源泉徴収・納付の手間
  • 消費税計算の面で不利
  • 社会保険料の負担が生じる

そこで「何でもかんでも業務委託契約にしよう」と思い付きで行動するのは危険です。もし税務調査の際に「実質的に給与である」として外注費の支払いを否認されると、具体的に以下のようなペナルティが生じます。

  • 仕入税額控除不可による消費税の追徴課税、過少申告加算税、延滞税の支払い
  • 源泉所得税徴収漏れによる追徴課税、不納付加算税、延滞税の支払い

これが調査年数分(3年~5年)生じるため、否認された際の負担は相当大きいと言えます。そうならないためにも、業務委託契約として認められるための基準を確認しておきましょう。

2.形式基準と実質基準

給与と外注費の判定は形式基準→実質基準の二段階により行います。

①形式基準

まずは形式基準による判定です。形式基準はその契約形態によって給与か外注かを判定します。
具体的には請負契約であれば外注、雇用契約であれば給与と判定します。

請負契約と雇用契約、それぞれの定義について確認しておきましょう。

  • 請負契約…一方が仕事の完成を約し、もう一方がその成果に対して報酬を支払うことを約する契約
  • 雇用契約…労働者が使用者に対し労働に従事することを約し、使用者がその労働の対価として報酬を支払うことを約する契約
請負契約の税務処理
受託側(受取り側)の税務
  • 収入は事業所得として所得税の確定申告が必要となる
  • 消費税の区分は「課税売上」となる
委託側(支払い側)の税務
  • 「外注費」や「業務委託費」などの勘定勘定で経費に計上する
  • 消費税の区分は「課税仕入」となる
  • 業務内容によっては源泉徴収が必要
雇用契約の税務処理
従業員側の税務
  • 収入は給与所得に区分され、多くの場合は年末調整により所得税の課税関係が完結する
会社側の税務
  • 「給料手当」などの勘定科目で経費に計上する
  • 消費税の区分は「対象外(不課税)」となる
  • 給与から源泉所得税を天引きし、毎月(もしくは半年に一度)納付する必要がある

②実質基準

形式基準に続いて実質基準での判定を行います。実質基準とは簡単に言えば事実認定による判定です。
外注費として認められるためには、受注側がその業務を事業として「反復、継続、独立」して行っていることが要件となります。

より具体的に外注費と判定されるための条件の一例を以下に示します。

  1. 使用者の指揮監督(仕事の進め方・時間等)を受けない
  2. 使用者から時間の拘束を受けない
  3. 急に仕事が減るなど、収入面のリスクを負う
  4. 自分が個人事業主であると自覚しており、所得税の確定申告を行っている
  5. 他人(下請けや従業員など)が代替して業務を行うことができる
  6. 仕事の完成、引渡しをもって報酬を貰える
  7. 仕事の成果が途中で滅失するなどした場合においてリスクを負う
  8. 材料・その他の現場経費・道具などを自己負担している
  9. 営利性・有償性がある(営利を目的として継続的に行い社会的にも事業として認められている)
  10. 請求書・領収書などを発行している

3.従業員を外注に変更する場合の注意点

今まで雇用契約に基づき給与を支払っていた従業員を、途中から業務委託契約に基づいた外注に変えるケースもあるかと思います。この場合は先述の条件を満たしていることはもちろん、外注に変更した合理的な理由が必要となります。

その理由が「消費税や社会保険料が安くなるから」といった理由では認められない可能性があります。例えば「優秀な人材を確保しやすくするため」「完全能力制で報酬を支払いたいため」などといった理由であれば問題なく認められるでしょう。

4.まとめ

給与と外注の判定は消費税や源泉所得税への影響が大きいため税務署の指摘を受けやすい項目です。契約内容の要件を満たすことはもちろん、日々の仕事の実態も外注に則した内容になっているか、慎重に判断するように心がけましょう。

従業員に対する家賃補助と税務

従業員に対する福利厚生として多くの会社が導入している社宅や家賃補助制度。どちらも従業員の家賃負担を軽減するという意味では同じですが、大きく分けて以下の3つの方法があります。

  1. 社宅(借り上げ)…会社が賃貸契約を結び、家賃の一部を従業員の給与から「社宅利用料」として控除する
  2. 社宅(所有物件)…会社が所有している物件を相場より安く従業員に貸し、給与から「社宅利用料」として控除する
  3. 家賃補助…従業員本人が賃貸契約を結び、家賃の一部を「住宅手当」として給与に加算して支給する

では、上記のうちどの方法を選択すべきなのでしょうか?

1.家賃補助は給与として課税される

冒頭で挙げた3つの方法は「社宅利用料を給与から控除」する方法と「住宅手当を給与に上乗せして支給」する方法に分けられます。給与から天引きされる社宅利用料は課税対象にはなりません(後述の条件を満たしている必要あり)。

一方、住宅手当は給与扱いとなり所得税が課税されるうえ、社会保険料の負担も増えます。家賃の負担軽減額が全く同じであると仮定した場合、住宅手当を支給する方法は所得税と社会保険が増加する分だけ手元に残る金額が減ります。したがって従業員にとってお得なのは社宅制度ということになります。

また、会社にとっても社宅制度の方が社会保険料の負担が少なく済むため、その面では社宅制度の方が有利です。

2.社宅制度のデメリットと注意点

社宅制度の有利な面について触れましたが、実際に制度を導入する際にはその他の要素も含めて総合的に判断すべきです。例えば社宅制度には以下のようなデメリットが挙げられます。

借り上げ社宅のデメリットと注意点

  • 物件選び~賃貸契約、退去の際の手続きなどの手間が生じる
  • 敷金、礼金、更新料など負担割合を規定する必要がある

自社所有社宅のデメリットと注意点

  • 物件購入の負担が生じるため会社の規模によっては限界がある
  • 社宅が古くなっても容易に交換ができない

社宅制度共通のデメリットと注意点

  • 従業員にとっては自由に住まいを選べない点が不満となる可能性がある
  • 給与として課税されないためには条件がある

従業員の士気を高めるために効果的な社宅制度ですが、資金繰り面・業務負担面で会社経営を圧迫することがないよう注意が必要です。また、従業員によっては「多少手取りが減っても自由に家を選びたい」というニーズも存在するかもしれません。そういった面も含めてどの制度を導入するか検討しましょう。

また、最後に挙げた「給与として課税されないためには条件がある」という点が社宅制度を採用するうえで非常に重要です。この点は次章で詳しく解説します。

3.社宅制度で給与として課税されないための方法

従業員に対して社宅を貸す場合には、従業員から毎月定額の家賃を徴収する必要があります。では、その家賃はどのようにして決めたら良いのでしょうか?国税庁のホームページに従業員に社宅を貸す場合の「賃貸料相当額」の計算方法が記載されています。

賃貸料相当額の計算方法

賃貸料相当額は、次の(1)から(3)の合計額となります。

(1)(その年度の建物の固定資産税の課税標準額)×0.2パーセント

(2)12円×(その建物の総床面積(平方メートル)/3.3(平方メートル))

(3)(その年度の敷地の固定資産税の課税標準額)×0.22パーセント

なお、自社所有物件を社宅として貸す場合だけでなく、借り上げ社宅についても上記の賃貸料相当額を算出する必要があります。この賃貸料相当額が給与として課税されるか否かの基準となります。

給与として課税される範囲

従業員に社宅を貸した場合の課税関係をケース別にまとめます。

(1)従業員に無償で貸す場合

賃貸料相当額が給与として課税されます。

ただし、看護師や守衛など勤務場所から遠い場所に住むことが困難な業種について、仕事に従事させる都合上社宅を貸す必要がある場合には、無償で貸与しても給与として課税されない場合もあります。

(2)従業員から賃貸料相当額より低い家賃を受け取っている場合

受け取っている家賃と賃貸料相当額との差額が給与として課税されます。

ただし従業員から受け取っている家賃が賃貸料相当額の50パーセント以上であれば、給与として課税されません。

(3)従業員が直接契約している家の家賃を負担する場合(住宅手当の支給など)

会社が従業員に支給した金額が給与として課税されます。

4.家賃の50%を徴収するのは問題あり?

実務的には借り上げ社宅について賃貸料相当額を計算せず、実際の家賃の50%を徴収しているケースも多いかと思います。結論から言えばこの方法で計算しても税務的には問題ない可能性が高いです。

と言うのも、賃貸料相当額は実際の家賃よりもかなり低くなるケースが多いためです。比較的小規模な社宅の場合、賃貸料相当額の50%=実際の家賃の20%程度になるケースが多いようです。したがって実際の家賃の50%を徴収すると、無駄に多くの賃料を徴収している可能性が高いです。

従業員の家賃負担をいくらにするかは税務面以外の問題(会社の資金繰りの影響など)も考慮する必要があるため一概には言えませんが、例えば節税目的で役員の社宅を会社の経費にする場合などは賃貸料相当額に基づいて計算した方が多く損金計上できるため有利と言えるでしょう。

5.まとめ

社宅や家賃補助制度について解説しました。住宅手当として支給すると所得税や社会保険料の対象となるため社宅の方が税務面では有利です。ただし社宅制度にも課税されないためには賃貸料相当額の50%以上を従業員から徴収する必要がある等の注意点はあります。

実務的には固定資産税評価額が分からないからと単純に実際の家賃の50%を徴収する方法を採用しているケースも多いですが、節税効果を考えると損をしている可能性があるため改めて賃貸料相当額を計算する価値はあるでしょう。

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