従業員に支払う給与と、業務委託先に支払う外注費。これらは似て非なるものであり、違いを明確にしておく必要があります。税務調査で指摘されやすい部分でもありますので基準を把握しておきましょう。
1.給与と外注費 税務面での相違点
まずは税務面における違いを整理します。
従業員給与 | 個人事業主との業務委託 | |
源泉所得税 | 徴収義務あり | 業種による |
消費税の仕入税額控除 | 不可 | 可能 |
社会保険 | 勤務時間・日数次第で加入義務あり | 加入不可 |
要するに、従業員を雇うと以下のような負担が生じます。
- 源泉徴収・納付の手間
- 消費税計算の面で不利
- 社会保険料の負担が生じる
そこで「何でもかんでも業務委託契約にしよう」と思い付きで行動するのは危険です。もし税務調査の際に「実質的に給与である」として外注費の支払いを否認されると、具体的に以下のようなペナルティが生じます。
- 仕入税額控除不可による消費税の追徴課税、過少申告加算税、延滞税の支払い
- 源泉所得税徴収漏れによる追徴課税、不納付加算税、延滞税の支払い
これが調査年数分(3年~5年)生じるため、否認された際の負担は相当大きいと言えます。そうならないためにも、業務委託契約として認められるための基準を確認しておきましょう。
2.形式基準と実質基準
給与と外注費の判定は形式基準→実質基準の二段階により行います。
①形式基準
まずは形式基準による判定です。形式基準はその契約形態によって給与か外注かを判定します。
具体的には請負契約であれば外注、雇用契約であれば給与と判定します。
請負契約と雇用契約、それぞれの定義について確認しておきましょう。
- 請負契約…一方が仕事の完成を約し、もう一方がその成果に対して報酬を支払うことを約する契約
- 雇用契約…労働者が使用者に対し労働に従事することを約し、使用者がその労働の対価として報酬を支払うことを約する契約
請負契約の税務処理
受託側(受取り側)の税務
- 収入は事業所得として所得税の確定申告が必要となる
- 消費税の区分は「課税売上」となる
委託側(支払い側)の税務
- 「外注費」や「業務委託費」などの勘定勘定で経費に計上する
- 消費税の区分は「課税仕入」となる
- 業務内容によっては源泉徴収が必要
雇用契約の税務処理
従業員側の税務
- 収入は給与所得に区分され、多くの場合は年末調整により所得税の課税関係が完結する
会社側の税務
- 「給料手当」などの勘定科目で経費に計上する
- 消費税の区分は「対象外(不課税)」となる
- 給与から源泉所得税を天引きし、毎月(もしくは半年に一度)納付する必要がある
②実質基準
形式基準に続いて実質基準での判定を行います。実質基準とは簡単に言えば事実認定による判定です。
外注費として認められるためには、受注側がその業務を事業として「反復、継続、独立」して行っていることが要件となります。
より具体的に外注費と判定されるための条件の一例を以下に示します。
- 使用者の指揮監督(仕事の進め方・時間等)を受けない
- 使用者から時間の拘束を受けない
- 急に仕事が減るなど、収入面のリスクを負う
- 自分が個人事業主であると自覚しており、所得税の確定申告を行っている
- 他人(下請けや従業員など)が代替して業務を行うことができる
- 仕事の完成、引渡しをもって報酬を貰える
- 仕事の成果が途中で滅失するなどした場合においてリスクを負う
- 材料・その他の現場経費・道具などを自己負担している
- 営利性・有償性がある(営利を目的として継続的に行い社会的にも事業として認められている)
- 請求書・領収書などを発行している
3.従業員を外注に変更する場合の注意点
今まで雇用契約に基づき給与を支払っていた従業員を、途中から業務委託契約に基づいた外注に変えるケースもあるかと思います。この場合は先述の条件を満たしていることはもちろん、外注に変更した合理的な理由が必要となります。
その理由が「消費税や社会保険料が安くなるから」といった理由では認められない可能性があります。例えば「優秀な人材を確保しやすくするため」「完全能力制で報酬を支払いたいため」などといった理由であれば問題なく認められるでしょう。
4.まとめ
給与と外注の判定は消費税や源泉所得税への影響が大きいため税務署の指摘を受けやすい項目です。契約内容の要件を満たすことはもちろん、日々の仕事の実態も外注に則した内容になっているか、慎重に判断するように心がけましょう。